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❝SDGsを滋賀県でやろう!-滋賀県の挑戦-❞ 三日月大造さん(滋賀県知事)後編



前編はこちら

滋賀県は、昨年開催したシンポジウムにトーマス・ガス国連事務次長補をお招きするなど、非常に積極的に取り組んでおられますが、滋賀県を世界的にどのような位置付けにしたいと考えておられますか?

三日月さん:僕が知事として滋賀県政をお預かりしている中で基本姿勢の1つに、「滋賀から世界へ、世界から滋賀へ」というものがあります。世界とのつながりの中で滋賀県を見て、世界とのつながりの中で、私たち滋賀県民の生活や生産活動を考えています。

例えば、滋賀県は全国有数の農業県です。お米やお茶などを大阪、東京、時には海外にお届けしています。このような農業県である滋賀県は、美味しい産物だけではなく、より環境にこだわった生産方法を追求しようということで、日本で最初に「環境こだわり農業」を始めた背景があります。「環境こだわり農業」とは、農薬と化学肥料を半分以下にして、田植えの際に汚染された水を水路に流さないようにすることで琵琶湖を守る取組です。また、草刈りをする際に除草剤を散布しないようにすることも含みます。たくさんの生き物が暮らし、琵琶湖の水を飲料水として使う県民のために始まった「環境こだわり農業」は、滋賀県が日本で最も活発に取り組んでいると言えます。

しかし、“農薬と化学肥料を半分以下にしている“ということは、依然として半分使っているということです。これをゼロにする取組を昨年度から始めています。既に滋賀県の農家は、有機栽培や無農薬、アイガモ農法などに取り組んでいるのですが、これを県で、オーガニック農業と銘打って、お茶とお米で実施します。そうすることで、健康を追求したり、環境を守ったり、その価値を滋賀県のひとつのブランドとして世界に発信していきたいと考えています。

こうした取組は、欧米のスーパーマーケットでも無農薬の野菜を揃えたBIO食品(※注1)を扱う売り場があり、注目を集めています。東京オリンピックの際には、アスリートが食材を意識する場面が

あると思います。そうした時に、様々なことに配慮しながらものづくりができる滋賀県でいようと、オーガニック農業という新たな取組を続けています。

こうした取組を続けていたところ、昨年ベトナムの首相が来日した際に、滋賀県の農業に強い関心があるということで、面会の機会を得ました。なぜ首相が関心を持たれたかというと、ベトナムは農業

国だからです。今、ベトナムは急速な経済成長を続けていて、工業も発展しているのですが、環境被害が様々なところで発生しています。そこで、滋賀県のようにグローバル企業が立地して工業生産も高いにも関わらず、どうして農業と共存できているのかと関心を持ち、モデルにしたいと仰っています。こうした経験から、私は開発途上国に対して、環境を大切にしながら農業や工業生産をするモデルを滋賀県の取組として発信していくことができるのではないかと思っています。

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(※注1)BIO食品:有機農産物、有機加工食品を指す。欧米のスーパーマーケット等では、売り場の一角にBIO食品が陳列され、農薬等を使用している食品に比べて割高ではあるものの、顧客の健康志向に対応して販売している。

❝自分たちのものは自分たちで作って大事にしていく、そういう滋賀県でありたい❞

若者への期待はどのようなものがありますか?

三日月さん:若者は、私の年代よりも未来に生きている可能性が高いですから、SDGs達成に向けた取組に積極的に関わって頂き、自分ごとであると捉えて欲しいです。自分ごとであるからこそ、自分には何ができるのか、自分が何をすべきか、常に考えて欲しいです。もちろん私たちも、若者が考える機会を一緒に作りながら考えていきたいと思っています。


滋賀県は、次期基本構想の策定を諮問した基本構想審議会にも若者を委員として選任しています。

三日月さん:基本構想審議会では、高校生を委員に任命しました。従前は、関係団体や連合会の会長など県内の各分野を代表する方々にお願いしていたのですが、大人だけでなく、未来を担う若者の意見も反映すべきとの思いで委員に任命しています。若者を委員としたことで、具体的にどういった成果があったという検証までは至っていませんが、任命された生徒自身が新たな視点を得るきっかけになったかもしれません。何より、素晴らしいアイディアやヒントを出してくれています。

滋賀県の菅浦という地域の村の掟が菅浦文書という書き物にまとめられているのですが、この度、国宝に指定されました。時の権力者が作った掟が国宝に指定される例はありますが、村人が自分たちで作ったものが国宝になるということは極めて稀です。そのくらい自分で治める、自治の伝統、自治の気概、自治の思想が滋賀県の人には備わっていると思っています。自分のことは自分で決める、自分たちのことは自分たちで決める。そういう滋賀県でありたいと考えています。何でも与えるんじゃなくて、自分たちのものは自分たちで作っていく、と同時に自分たちで大事にしていく、それが滋賀県のあるべき姿だと思います。

❝諦めずにあらゆる機会で、SDGsを伝えていく❞


全ての県民にSDGsという考え方を届けるには困難も伴うと思いますが、今後はどのように取り組んでいかれますか?

三日月さん:諦めずにあらゆる機会で、SDGsを伝えていきます。「みなさんが取り組んでいることが、実はSDGsの達成に繋がっています」ということを、できる限り、対話集会や県のイベントでお伝えしていくことが必要だと思っています。

例えば、滋賀県は工場の排水規制を他の都道府県より厳しく設定しています。相当な排水処理の努力をしておられる工場も沢山あります。こうした取組もSDGsに繋がっていることを伝えていけば、「私たちがやっていることもSDGs達成に貢献しとるんや」と気づいて頂けると思っています。最近はエシカル消費(※注3)も流行っていますが、フードロスを減らす取組を滋賀県民は以前から自然に行っていると感じます。買い物にエコバックを持参する方や、自分もそうですが、なるべくペット

ボトルを買わずに水筒を持参するような取組を何気なく実践している人たちも多いと思います。

このように、「みなさんが、日ごろから当然のように取り組んでいることが、世界の基準に照らし合わせると先進的な取組なのです」と伝えていくことも必要だと思っています。子ども達には「同じ時代に地球上で生きる人たちや生き物のために、みんなにも何かできることがあるんだよ」ということを伝える教育活動も展開していきたいと考えています。

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(※注2)エシカル消費:商品やサービスを消費する際に、貧困問題や人権問題、気候変動といった側面から倫理的(Ethical)に正しく供給されているか、その生産背景を考えて消費しようという考え方。


SDGsを“使いづらい”と感じることはありますか?

三日月さん:日本人にとっては、SDGsって言いにくいですね。あとは、説明にも時間を要する印象です。それでも、地域のSDGs達成に向けた取組の熱心さや進展度合いが、投資先の判断であったり、居住地の選択であったり、これから様々なことに対する評価基準のひとつになるかもしれません、と県民のみなさんに説明しています。

海外からの外国人観光客にとっては、世界的に有名な京都を訪れようと思うのは自然なことです。ただ、次に日本を訪れる時には、サステナブルな暮らしをしている場所に行ってみたいと思うかもしれません。そうした時に、彼らの選択肢のひとつに滋賀県が入ってくるようにSDGsに対する取組やサステナブルな暮らしを発信し続けたいと考えています。

❝母の日・父の日・びわ湖の日❞

最後に、SDGsを活用してまちづくりに取り組む中で感じる課題があれば教えてください。

三日月さん:今のところ、ふたつの課題を感じています。ひとつ目は、滋賀県としてパートナーシップを広げていく取組を始めた段階ですので、いかに効果的に多様なアクターと協力していくか、という課題です。例えば、滋賀県は地理的に日本の真ん中にありますが、新幹線で通過するだけという方も多いですし、滋賀県のことをよく知らないという方も多いと思います。SDGs達成に向けた滋賀県の取組が、そういう方々に滋賀県を知って頂くきっかけになればと期待しています。

ふたつ目の課題は、私自身はSDGs達成に向けた取組に確信を持って取り組んでいるのですが「滋賀県の知事である以上、もっと滋賀県のために、滋賀県民にとってSDGsが役に立つということ前面に押し出して、旗を振って欲しい」という方もいます。確かに「世界のために、地球のために、未来のために」と言っても、身近な取組をして欲しいという願いを持つ人も多くいます。そこで、滋賀県民の平均寿命が他県より長く、健康寿命も長いという調査結果が昨年出たことで、「健康しが」というコンセプトを政策の柱に据えることにしました。人の健康、自然の健康、社会の健康、この3つを総称して「健康しが」とする取組を始めました。健康という側面からSDGs達成に向けた取組に絡めていきたいと考えています。

そのほかにも、母の日が5月、父の日が6月、びわ湖の日が7月なので、「母の日・父の日・びわ湖の日(※注3)」というプロジェクトで、何か琵琶湖に貢献できることをやろうとか、琵琶湖に貢献できるものを買おうという機運を醸成しています。こういった取組もエシカル消費につながりますし、ひいてはSDGs達成に繋がるはずです。

こうした課題はありますが、滋賀県を挙げて、SDGs達成に向けて全力で取り組んで行きたいと思います。

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(※注3)母の日、父の日、びわ湖の日プロジェクト:びわ湖や水源の森の保全や再生をさらに進めるため、「買う」ことがまたびわ湖を「守る」ことにもつながる、自然の恵みを活かした商品の販売促進に、オンラインストアや東京日本橋のアンテナショップ「ここ滋賀」などで取り組んでいる。詳細は同プロジェクトウェブサイト(http://thanks-motherlake.jp

 


三日月 大造(Taizo Mikazuki) 滋賀県知事

1971年生まれ。滋賀県出身。1994年、一橋大学経済学部卒業後、JR西日本に入社。広島支社にて駅員、電車運転士や営業スタッフなどに従事。JR西労組中央本部青年・女性委員長(専従)、JR連合青年・女性委員会議長を務める。2002年、松下政経塾23期生として入塾。2003年、衆議院議員初当選(4期連続当選)。国土交通大臣政務官、国土交通副大臣等を歴任。2014年7月より滋賀県知事に就任。現在二期目。持続可能な滋賀を目指して「健康しが」の創造・発信に取り組む。

 

2018年5月15日、滋賀県公館にて収録 聞き手:和田恵(日本) 編集:和田恵・高木超(日本) ウェブ掲載:和田恵(日本)

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