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❝ 楽しく、自分らしくSDGsに取り組む!❞ 末吉里花さん(一般社団法人日本エシカル協会代表理事、日本ユネスコ国内委員会広報大使)

❝毎日の「買い物」が、SDGs達成につながる❞

まず、エシカル協会でSDGsをどのように活用しているのか、どのような取り組みをされているのか。また、SDGsのプラス点、マイナス点を教えてください。

末吉さん:エシカル協会は、一般の人たちにむけてエシカル消費を普及・啓発している団体ですが、同時に企業に対しても、エシカルなものづくりをしていってもらうように働きかけています。事業の中では主に、エシカル消費をテーマにした連続講座の開催したり、講演や授業などを通じて、できる限り多くの人にエシカルの考え方やエシカル消費について知ってもらう機会を提供しています。エシカル協会を設立した2015年当時は、「エシカル」という言葉はまだ下火でしたし、同じように持続可能な開発目標(以下、SDGs)も知られていませんでした。しかし、SDGsがエシカル消費の認知度向上の背中を押してくれていることは間違いありません。エシカル消費の伝え方は簡単ではありませんが、最近ではエシカル消費とSDGsを抱き合わせにして、これらの考え方が普及していくよう取り組んでいます。

「SDGsは難しい」考える人もいるかもしれませんが、私は、SDGsの目標を達成するために、エシカル消費が誰にとっても、一番身近で気軽にできる手段だと思います。なぜなら、どんな人も消費者であり、毎日の暮らしの中でなんらかの消費をしているからです。買い物をする際に、私たちが何を選ぶかによって、2030年がどのような未来になるかが左右されると言っても過言ではありません。身近な「買い物」という消費行動の中で、私たちがエシカルなものを選べば、目標の達成に寄与することができます。

SDGsのマイナス点は、17あるゴールのアイコンを示すだけで、個人であれば「自分は世界の問題の解決に取り組んでいる」、企業であれば「自分たちの事業の中で取り組んでいるから十分だ」と考えてしまいかねないということです。17個のゴールはすべて、全世界の人たちが2030年に描く最も理想とする世界の状態を表しています。そのゴールを達成するために、今自分たちは何ができるのか、バックキャスティングをして考えていかなければいけないと思っています。

SDGsを共通言語として、みんなが議論したり、問題をオープンにしたりできることが重要です。しかし、SDGsは大企業や自治体などが盛んに取り組まれていますが、企業や自治体のトップだけが積極的に取り組んでいて、同じ組織の中でもまだ何も知らない人たちが多くいる、といった印象を受けます。SDGsのアイコンをコミュニケーションツールとして用いて、「政府や企業のトップに任せればいい」ではなく、どうやったら主体的に参加してもらうかがカギになると思います。

❝「傾聴のSDGs」でなければならない❞

末吉さん:SDGsは、すべての人に耳を傾けるSDGs、すなわち「傾聴のSDGs」でなければならないと思います。そうでなければ、開発途上国に焦点が当たっていたミレニアム開発目標(以下、MDGs)と変わりません。例えば、日本でSDGsをテーマにしたシンポジウムやフォーラムがあるとします。議論を交わすこのような場には、ほとんどといっていいほど途上国のいわゆる“取り残されている人たち”は出てきません。彼らの声がほとんど聴こえないまま、コトが運んでいっているような気がして少し心配です。また、日本で取り残されている人とは誰なのだろう、と考えることも重要です。日本の子どもの貧困問題やジェンダーの課題も深刻です。世織書房の『子ども達が語る登校拒否』という本があります。これは不登校の子どもたちが書いた作品を集めた書籍なのですが、驚いたことに、作中では地球の環境問題について表現をする子どもたちがいました。彼らの作品を読んで私なりに感じたのは、自然環境と心はつながっていて、地球の環境が破壊されてしまうと、感受性の高い子どもたちの心も同時に深く傷を負うのだ、ということです。こうした子どもたちも取り残すことなく進めていけるSDGsであってほしいです。

また、日本では、さまざまな企業や団体が古着を開発途上国に送る支援をしてきましたが、そのような支援を必要としている国がある一方で、海外から無償で届けられる服が存在することで、その国の服の産業を衰退させてしまう可能性もあります。途上国42カ国は、古着の輸入を法律で禁止しました。よかれと思ってやっていることも、違う側面があるかもしれません。多面的かつ多角的な視点を持って取り組むことが重要であると考えています。

 

TBS系「世界ふしぎ発見!」でキリマンジャロの氷河を見たというお話をお聞きしたのですが、それ以前のキャリアパスなどを教えてください。

末吉さん:エシカル消費の普及・啓発を中心とした活動に至ったきっかけがまさにキリマンジャロに登頂した経験です。それまでの私は、好きなものを買い、他人や環境のことなどは何も考えず、常に自分だけが良ければいい、という人生を送っていました。そんな私に転機がやってきます。TBS系「世界ふしぎ発見!」のミステリーハンターになり、世界中の様々な秘境を旅させてもらいました。これまでプライベートも含めて75カ国以上訪れましたが、私なりに共通して見えたことがありました。世界というのは、一握りの権力や利益のために、美しい自然や、弱い立場の人たちが犠牲になっている構造だ、ということです。例えば、シベリアの永久凍土が温暖化によって溶けてしまうことで、土台を失った家が傾いてしまい、誰も住むことができなくなってしまった村の存在を聞きました。そこに住む人々はほとんど温室効果ガスを排出する生活をしていないにも関わらず、先進国の生活がもたらす影響をもろに受けてしまっているのだと感じました。そのようなショックが問題意識として積み重なっていたときに、キリマンジャロを訪れたことが、私の人生に大きな影響を与えました。キリマンジャロの頂上で、温暖化で大きく減退した氷河を目の当たりにしたときのショックは今でも忘れられません。

©️一般社団法人エシカル協会      

キリマンジャロの登頂を終え、日本に帰国してからは、NGO団体が主催する清掃活動などに参加しましたが、「ひとりの人間が行う小さな活動にも意味があるのだろうか」、ともやもやと悩むことが多くなりました。そんな時に出会ったのがフェアトレードです。私は、ピープルツリー(※注1)のワンピースに出会ったことで、フェアトレードについて学ぶきっかけを得ました。また、フェアトレードを広く伝える人が増えたらと願い、「フェアトレード・コンシェルジュ講座」を始めました。そして、徐々にネットワークが広がり、もっと社会的に責任を持ちながら広く取り組みたいと考え、当時英国から日本に入って来た「エシカル」という考え方が日本人には受け入れやすいのではないかと感じ、一般社団法人エシカル協会を設立しました。

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(※注1)ピープルツリー:フェアトレード専門で商品を展開する衣料品ブランド

 

今後のSDGsについてどのように考えているかを教えてください。

末吉さん:今後のSDGsの鍵となるのは、若い人たちの声と行動であると考えています。同時に、若者たちの本音を受け止める大人が増えていかなければなりません。そのためにも、みなさんのように、大人と若者を繋ぐ場を作ることが重要だと思います。私もSDGsやエシカル消費について活動をしている中で、若い人と大人の反応が異なり、世代間ギャップのようなものを感じることもありますが、「会社は引退できるけれど、地球人は引退できない」というように、SDGsは全ての人が取り組むべきではないでしょうか。そのためには、各自がマインドセットを変える必要があり、大人も学べる機会が必要です。仏教用語では「開発」のことを「かいほつ」と言うそうで、「内なる心を耕す」という意味を持っている、とあるお坊さんから聞きました。一人ひとりが、まずはいったん自分の心を振り返るところから始めるべきではないでしょうか。

❝自分次第で楽しく取り組むことができる❞

「自分たちはSDGsに貢献をするために何ができるのだろう」と思っている人は、世の中にも多くいると思いますが、どのようにSDGsにつながる活動を「ステキなもの」と伝えることができるのでしょうか。SDGsに達成に向けて、無理なく楽しく取り組むコツを教えてください。

末吉さん:例えば、私は肉を食べない日を作っています。私はベジタリアンではないので、普段は肉を口にすることがありますが、食肉生産の裏側にある負の側面を知ってしまい、こうした側面の改善に向けて、自分にもできることを探しました。その結果が、肉を食べる回数を減らすことでした。卵も「平飼い」と明記されているものを選ぶなど、選べる環境にいれば、倫理的に良い方を選ぶようにしています。無理をしても続かないので、自分が続けられる範囲で積み重ねていくことをおススメします。ぜひ、今日からひとつ、小さなことでもいいので、自分が継続してできるエシカルなことを決めて宣言してみてください。私はそれを「マイ・エシカル」を宣言してください、と言っています。「マイ・エシカル」を継続してやっていくうちに、いつの間にか意識せずにできるようになり、ある日「良き習慣」になる瞬間がやってくるはずです。そうなると、とても楽になります。

制限された、と考えると苦しくなるので、自分が選ぶエシカルな選択をできる限り楽しさに繋げることも大切です。例えば、肉を食べない日を決めたのであれば、その日は肉を使わずにどんな美味しい料理ができるか、と新たなメニューを考えてみたり、母から受け継いだ服をリメイクしたり、新しい楽しみやオリジナリティを見つけることも継続していくコツです。

 私は若いころ、流行に左右されてモノを消費してきましたが、今は流行り廃りに関係なく、エシカルという自分の軸、基準があるため、惑わされることなく自然体でいることができ、精神的にも非常に楽になりました。

 消費者がエシカルな選択をできる限りできるように、企業も倫理的に正しいものを作り、提供できるように環境を整える必要があると思います。

SDGsに関わっている人の特徴として、とても多忙な印象があります。ワークライフバランスの面で、日頃どのように過ごされていますか。

末吉さん:確かに、問題意識を持っている人ほど働きすぎる傾向があるように思います。私もなるべくバランスをとるように心がけてはいますが、なかなか上手くいかないことが多く、今の私にとって自分のワークライフバランスを整えることは、サステナブルに仕事をしていく上でも課題だと感じています。ただ、若い人たちが活動しているのを目の当たりにし、同じ志を持ち、取り組んでくれる力強い世代が出てきたことで、とても励みになっています。みなさんのように若い人が意欲的に社会課題に向き合っている姿を目にすると、仲間が増えた気がして明るい気持ちになります。仲間が増えることで、私だけが頑張ればいい、という気持ちが少しおさまったような気がしています。

最後に、ミレニアル世代へのメッセージをお願いします。

末吉さん:ミレニアル世代のみなさんには、問題解決の一部になってほしいと思っています。私自身、活動を続ける中で悩んできたことがあります。そんな時に私の背中を押してくれたのは、パタゴニアの創始者であるイヴォン・シュイナードさんの「何もしなければ、あなたは問題の一部になったことになる。でも、何かをすれば、あなたは問題を解決する動きの一部となる。人の価値は何を言うかではなく、何をするかで決まるのだ」という言葉でした。つまり、私たちは、行動を起こすことによって、世界を変えることができます。その中で、やはり「楽しく」ということが一番大事であると思います。また、問題解決の一部になるために、私たち大人をおおいに活用してほしいです。若者が声をあげて活動し始める時代になった今、その声に耳を傾け、共に何かやりたい、と思っている大人たちも増えています。世代や立場を超え、一緒にSDGs達成に貢献していきたいです。

 

末吉里花(すえよし りか)

一般社団法人エシカル協会代表理事

日本ユネスコ国内委員会広報大使

慶應義塾大学総合政策学部卒業。TBS系『世界ふしぎ発見!』のミステリーハンターとして世界各地を旅した経験を持つ。日本全国の自治体や企業、教育機関で、エシカル消費の普及を目指し講演を重ねている。著書に『祈る子どもたち』(太田出版)。新刊『はじめてのエシカル』(山川出版社)。消費者庁「倫理的消費」調査研究会委員(2015.5〜2017.3)、東京都消費生活対策審議会委員、日本エシカル推進協議会理事、日本サステナブル・ラベル協会理事、NPO法人FTSN(Fair Trade Students Network)関東顧問、1%for the Planetアンバサダー、ピープルツリーアンバサダー

https://ethicaljapan.org

 

2019年5月19日、東京都内にて収録

聞き手:清水瞳(日本)

編集:大貫萌子(日本)、秀島佑茉(日本)

ウェブ掲載:清水瞳(日本)、高木超(日本)

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