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❝SDGsを滋賀県でやろう!-滋賀県の挑戦-❞ 三日月大造さん(滋賀県知事)前編


❝「新しい豊かさ」をSDGsで具現化する❞

はじめに、SDGsにご関心を持たれた「きっかけ」を教えてください。

三日月さん:私は、知事に就任して以降、人の幸せや豊かさとは何か、県民のために何をすべきか、どのようなメッセージが最も響くのか、といったことを常に考えています。ある時、自分たちの幸せが誰かの犠牲のもとにあるのではないか、自分たちの豊かさは何かを汚染して享受しているのではないだろうか、と考えるようになりました。そして、滋賀県だけが豊かなら良い、今だけが豊かであれば良い、一部の人だけが幸せであれば良い、という考えは誤りであると感じ、私が知事として県の基本構想を作る際には、みんなで「新しい豊かさ」を作ろうというコンセプトを基本理念に含めました。「新しい豊かさ」とは、今だけ、ものだけ、お金だけ、自分だけの豊かさではなくて、すべての人が将来も持続的に心で実感できる豊かさをみんなで作ることを指しています。そして、この基本理念に基づいて、滋賀県は「新しい豊かさ」というコンセプトを様々な場面で反映させようとしましたが、どうも抽象的です。そこで「新しい豊かさ」を具現化する検討過程で出会ったのがSDGsです。

私が「SDGsを滋賀県でやろう!」と初めて公式の場で申し上げたのは、2017年のことです。新年の挨拶の中で、「私たち滋賀県は琵琶湖をお預かりしているのだから、琵琶湖を中心に自然環境と共生する、すべてのひとが共生できる、琵琶湖新時代を作ろうという旗印のもと、SDGsを『新しい豊かさ』というコンセプトを具現化するためのアプローチとして活用しよう」と申し上げました。

実は、2017年が琵琶湖の保全再生の法律に基づく計画を作って、具体的な取組を始めた初年であり、滋賀県民が愛する「琵琶湖周航の歌」が定められてから100年という節目の年でもあったので、これを機に「琵琶湖新時代を作ろう」ということを申し上げたのですが、その具体的な取組の1つとして、国連が提唱しているSDGsの取組に滋賀県として参画すると宣言したのが始まりです。

SDGsと出会ってからは、どのような変化が起きましたか?

三日月さん: まず、私もSDGsのバッチを愛用し、国連本部を訪問するなど具体的な行動を起こしました。2017年6月には、国連事務次長補のトーマス・ガスさんに滋賀県までお越し頂き、SDGs をテーマにしたシンポジウム「サステナブル滋賀×SDGs(※注1)」で基調講演をして頂きました。シンポジウムだけでなく、トーマス・ガスさんには県内の中学校を訪問して頂いて、中学生と議論の場を設けたのですが、「自分たちが履いている靴、着ている服、どこでどうやってできているか想像してごらん」というトーマス・ガスさんの問いかけに、生徒たちがキラキラした目で反応していたことがとても印象的でした。

そのほかにも、和菓子の老舗「たねや」の山本社長にもシンポジウムのパネルディスカ

ッションに登壇頂きました。彼と話しているうちに、SDGsに関連した取組について、若者や、ビジネス界の第一線で活躍されている方々と一緒に語ることには、大きな意味があると感じるようになりました。

このように様々な変化が起きましたが、私たち滋賀県はSDGsを活用して「ここを目指していこう」というゴールを示し、SDGsを共通言語として、県の取組を再評価しようとしています。

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(※注1)サステナブル滋賀×SDGs:2017年6月1日に滋賀県と滋賀経済団体連合会が共催して開催されたSDGsについて考えるシンポジウムである。トーマス・ガス国連事務次長補の基調講演のほか、キャスターの国谷裕子さんをモデレーターにパネルディスカッションを開催。行政・経済界・若手起業家・地域住民など多様なアクターが参加し、サステナブルな滋賀を目指す「未来との約束」を宣言した。詳細は滋賀県ウェブサイト(http://www.pref.shiga.lg.jp/a/kikaku/sdgs/symposium_2017.html)。

❝近江商人の「三方よし」とSDGs❞

SDGsを打ち出した際、周囲の反応はいかがでしたか?

三日月さん:県内からは「自分たちも貢献したい」と共感してくださる方が多かったです。滋賀県の文化で「大阪や京都など、下流で水を使う人がいるのだから、なるべく琵琶湖を汚さないようにしよう」と、他人のことを考えて水を使う県民が多い。こういった背景もあり、高度成長期に石けん運動(※注2)も起きています。このような土壌があったので、県民の方々もSDGsに馴染みやすかったのではないでしょうか。

また、「日本の福祉の父」と称される、糸賀一雄先生が、戦災孤児や障害を抱える子どもと日常生活を共にしながら教育福祉活動をする近江学園を設立されています。こうした福祉の思想を信奉する、それを伝承する、実践する県民も多くいます。こうした方々にも「誰一人取り残さない」という概念は非常に合ったのではないでしょうか。

そのほかにも、近江商人には「売り手よし、買い手よし、世間よし」という「三方よし」の精神が根付いていますから、恐らくビジネス界のリーダーもSDGsに馴染みやすかったと思います。

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(※注2)石けん運動:1977年5月に琵琶湖で大発生した淡水赤潮を契機として、県民が主体となりリンを含む合成洗剤から、粉石けんに切り替えるよう働きかけた運動である。滋賀県は1979年にリンを含む家庭用合成洗剤の使用の禁止や、工場排水に含まれる窒素やリンの規制等を定めた琵琶湖富栄養化防止条例を制定するなど大きな動きとなった。

SDGsに関する取組も、徐々に実行の段階に入っていくと思いますが、県内自治体や日本政府とどのように連携して取り組んで行こうとお考えですか?

三日月さん:「パートナーシップで目標を達成しよう」というSDGsの目標17は、SDGs達成に向けたアクションを広め、推進していく上で、極めて重要だと思います。こうした背景から、様々な場でパートナーシップを構築する努力をしています。例えば、2019年度からSDGsの達成期限である2030年度までを計画期間とする、新たな県の基本構想を策定しているところです。この基本構想に、SDGsの考え方や目標などを落とし込むことで、より具体的に各施策に反映させることができるのです。

さらに、大学や企業とのパートナーシップは極めて重要です。大学を例にすると、滋賀県立大学等で行われている「キャンパスSDGs」の取組などを今後も広げていき、大学の研究や授業の中で、何かSDGsの達成に繋がるようなヒント、アイディア、そしてチャンスがないかと絶えず探してもらいたいと考えています。そして、私たち滋賀県も行政として何かできることはないかと絶えず探っています。そして、企業の方々とは「滋賀SDGs×イノベーションハブ」を今秋に立ち上げる予定です。経済界、金融機関の方々の協力を得て、SDGs達成に繋がるビジネスを生み出し、様々な形でサポートする体制を本格的に始めようとしています。

また、日本政府とのパートナーシップも重要です。県庁の1階では、JICAと滋賀県が協力してSDGsを取り入れたパネル展示を開催しています(※注3)。こうした機会を捉えて、情報交換や先進事例の共有が実現することを期待しています。都道府県の方が日本政府よりも具体的な取組は進めやすいと考えていますので、日本政府の取組を牽引できるような新たなモデルを構築したいと考えています。

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(※注3)「滋賀県×JICA国際協力事業×SDGsパネル展」:2018年5月2日から6月1日まで滋賀県庁本館県民サロンにて開催された、青年海外協力隊等での滋賀県出身者の活躍などを伝える展示JICA青年海外ボランティア等で活躍する本県出身者JICA青年海外ボランティア等で活躍する本県出身者(現在は展示終了)。


まさにSDGsに関する自治体のトップランナーであると感じます。

三日月さん:みなさんにそう言って頂けるようにできればと思います。また、他の自治体もそれぞれの自治体ごとに取り組んでおられます。様々な主体が取り組んで行かないと、SDGsは達成できないと考えていますので、とても良い流れが来ていると感じます。滋賀県は、日本で最も大きな湖である琵琶湖をお預かりしていますし、日本古来の商売道・商人道を作ってきた滋賀県特有の使命や役割があると思っています。

「琵琶湖をお預かりしている」という言葉が素敵に感じます。

三日月さん:その感性はまさに滋賀県民です。日本人の平均寿命は80歳程度ですが、琵琶湖の誕生は約400万年前にまで遡ります。だからこそ、今を生きる世代だけで汚したり壊したりする訳にはいかないと強く感じます。

先ほど、多くの自治体がSDGsに取り組んでいるというお話がありましたが、県だからこそできることは何でしょうか?

三日月さん:例えば、身近な福祉や教育に関する取組については、市町村の方が住民に近いですし、具体的で実効性ある取組ができるかもしれません。そのような状況の中で、都道府県は、国と市町村の間になる広域自治体ですから、広域自治体としての役割を果たしていくべきと考えています。例えば、琵琶湖は滋賀県内すべての自治体に関係していますから、琵琶湖の水質浄化に向けた、水質評価指標の作成といった取組は、市町村レベルより滋賀県という広域自治体が取り組む方が適切であると思います。その他にも、大学や企業との連携について、具体性を持って取り組むことができるのは、市町村よりも、むしろ県という広域自治体であると感じていますので、滋賀県ができる役割をしっかりと果たしていきたいと考えています。(後編に続く)

 

三日月 大造(Taizo Mikazuki)

滋賀県知事

1971年生まれ。滋賀県出身。1994年、一橋大学経済学部卒業後、JR西日本に入社。広島支社にて駅員、電車運転士や営業スタッフなどに従事。JR西労組中央本部青年・女性委員長(専従)、JR連合青年・女性委員会議長を務める。2002年、松下政経塾23期生として入塾。2003年、衆議院議員初当選(4期連続当選)。国土交通大臣政務官、国土交通副大臣等を歴任。2014年7月より滋賀県知事に就任。現在二期目。持続可能な滋賀を目指して「健康しが」の創造・発信に取り組む。

 

2018年5月15日、滋賀県公館にて収録 聞き手:和田恵(日本) 編集:和田恵・高木超(日本) ウェブ掲載:和田恵(日本)

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